Part1 コーチングで子供が伸びる

子どもが勉強しない理由は?

 親が「勉強しなさい」というと、子どもは「うるさいなぁ」「わかっているよ」「今やろうと思ってたのに」と答える・・・。
昔から、親子のこうしたやりとりは、かわっていません。もちろん、現在のように高等教育への進学率が高くはなかった戦中、戦前には、家庭ごとに事情は違ったでしょう。子どもに期待される「仕事」が勉強だけというのは、むしろ幸せな状況と言えるかもしれません。
ところで、そもそもどうして子どもは勉強しないのでしょうか?
理由はいろいろありますが、一番の理由が「勉強に何の意味があるのかわからない」ということかもしれません。
たとえば、算数や数学では「日常生活には足し算、引き算、かけ算、わり算で十分なのに、どうして方程式だの微積分だのと、ややこしい勉強をしなければならないのか?」と疑問をぶつけてくるこどもたちは、数多くいます。
それに対して「理屈ばかり言ってないで、やるべきことなんだからやりなさい!」と押し切るのも、1つのやり方ではあります。
 しかし、相手に納得してもらったほうが、効率良くことが進むのは大人同士の関係でも、子どもと大人の関係でも変わりません。
だとしたら私たちは、やみくもに「勉強しろ」と言うのではなく、子どもの疑問に納得のいく回答を与える必要があるのではないでしょうか?とは言うものの、これは決して簡単に答えられる問題ではありません。
以前は通用したかもしれない「良い成績を取れば、良い学校に進学できる。
良い学校に進学できれば、良い会社に就職できて、良い生活を送れるようになる」という答え方は、終身雇用が崩壊しつつある昨今では説得力を持ちません。
 一流大学を優秀な成績で卒業し、一流企業に就職できても、それで一生ご安泰という時代ではないのですから。
むしろ実力があれば学歴とは関係なく、起業家として成功する鈴が増えていることを、ある程度の年齢の子どもたちは知っています。
「良い学校に行くために勉強するのだ」はまったく回答になっていないことを、私たちは肝に銘じておくべきでしょう。
子どもたちは「親は勉強しろと言うのが口癖の存在」くらいに考えていますから、勉強することの意味を答えてもらおうとは期待していないかもしれません。
ですが、私たちが説得力ある回答をあたえられないのであれば、「勉強しろ」という言葉はただ空回りするだけですし、時には親に対する信頼を失わせる原因にもなりかねません。
本書では、こどもにどのように勉強させたら最も効率的かという「How」を中心に扱いますが、根底にあるのは「どうして勉強するのか」「させるのか」という「Why」です。
この質問に、計算式のような「正解」はありませんが、長年、子どもたちの教育に携わってきた立場から得た、私たちなりの回答を順を追って明らかにしていきたいと思います。
読者のみなさんもここでいったん立ち止まって、「なぜ子どもは勉強しなければならないのか?」と問いかけてみてください。

大人がダイエットできない理由は?

 大人になって振り返ってみると、やるべきことが勉強だけで良かった子ども時代は、何と楽だったことか、と思うのではないでしょうか。
社会に出ると、個人の努力だけではどうにもならないことが、多々あります。
でも勉強は違います。
一人でできますし、やればやっただけ成果があがるのです。
それも、テストの点などに速効で結果が反映されてわかりやすい。
そして自分の身についたことは、自分自身だけの成果であり、誰もそれを盗み出すことはできません。
高校くらいまでは、誰でも理解できる程度のことしか勉強の対象になっておらず、誰だって、ある程度の結果を出すことができる。
すでにその時代を通り過ぎた私たち大人は、それを良く知っています。
だからこそ、「こんな程度のことがなぜできない」「大した労力はひつようないのに、どうしてやらない」と、子どもたちに対して歯がゆくかんじるのでしょう。
 しかし考えてみてください。
大人には義務教育はありませんが、やはり相変わらず「わかっている」のにできないことは、たくさんあるのではないでしょうか?日本ではたいていの女性が、(たとえスマートでも)「自分は太っている」と感じているそうですから、ダイエットをしようとして、挫折した経験は、ほとんど誰もがお持ちでしょう。
男性だったら、ダイエットという意識はあまり無いかもしれませんが、たとえば「コレステロール値が高いから、脂っこいものは食べないようにすべきだ」とわかっていても、ついつい夜中に高カロリーのものを食べてしまう、といることがあるはずです。
禁煙しようとしても果たせない。
今年こそ英会話の一つでもモノにしてやろう、と思い続けて早10年。
などなど、要するに私たちはいくつになっても、親から「勉強しろ」と言われていた時代と、大して変わってはいないのです。
人にいくら言われても、私たちは動きません。
動けない、と言った方が正確かもしれません。
相手が気遣ってくれているのがわかっていても、「ちょっと痩せた方がいいんじゃない」と言われればムカッとする。
「そんなことわかっている」と言い返したくもなるでしょう。
もちろん医師から、「このままの食生活を続けていたら、5年後には命が危ない」と言われれば、ビックリしてアドバイスに従うかもしれませんが、それ以外のケースでは、外からの働きかけで私たちが動くことは、ほぼ確実に無いのです。
親が「勉強しろ」と言っても、子どもたちが動かない、動けないことに、何の不思議もありません。
では「わかっている」のにできない、「今やろうと思っていた」のにできないという状況は、どのようにしたら打破できるのでしょうか。
 いろいろな方法論があるでしょうが、最も効率がよいのは、「ロールモデルを見つける」ということかもしれません。
ロールモデルとはすなわち、お手本にすべき人、お手本にしたいと思うような魅力的な人のことです。
「あの人のようにエレガントな立ち居振る舞いができるようになりたい」、あるいは「あの人のようにテキパキと仕事ができるような、時間管理能力を身につけたい」など、「すごいなぁ」と思う相手がいると、人は自然とその人を見習い、まねしようとするものです。
「見返してやる」という、劣等感や怒りから来る思いも、前進のための良い原動力となりますが、できればポジティブな感情をベースにした方が効果的です。
そして憧れが強ければ強いほど、目標に向かっての前進は効率よく進みます。

お手本がいないという問題

 子どもたちで言うなら、スポーツ選手や芸能人などがわかりやすいお手本(ロールモデル)でしょう。
たとえば、イチロー選手や松井秀喜選手のメジャーリーグでの活躍を見て「格好いい!」と思う。
そして、あこがれの心から、自分もああなりたいと願うようになる。
この場合、子どもたちは親があれこれ言わなくても、自発的に目標に向かって行動するようになります。
しかし勉強では、この自然発生的なロールモデル設定は、ほとんど機能しません。
理由は二つあります。
まず、第一に勉強は、スポーツや芸能のように「一目瞭然」ではないからです。
メジャーリーグで活躍する、世界を舞台に女優として、あるいは歌手として活躍する、などというケースは、目に見える形で子どもたちを魅了します。
しかし、「勉強」はどうでしょうか。
昔は偉人伝を読んで感動し、たとえば医学の道を目指すなどのパターンが機能しましたが、情報量の多い現代社会では、それは難しいでしょう。
スポーツ選手などの活躍が連日報道される一方で、頭が切れる人のスマートさや、格好よさは、ほとんどがビジネスの現場など、大人の世界でしかあらわになりません。
当然、子どもたちがそれを目撃する機会は、スポーツや芸能などと比べて、極端に少ないのです。
第二の難しさは、「勉強」は自分で選択したものではないということです。
野球に興味のある子どもだからこそ、イチロー選手や松井秀喜選手に惹かれます。
サッカー好きな子どもなら、中田英寿選手や中村俊輔選手に憧れるでしょう。
ロールモデルの設定自体に、子どもの趣味嗜好がダイレクトに反映されるのです。
しかし勉強ではそうはいきません。
勉強することが大好きという子どもを除いて勉強は、たいていの場合、自分で選択したものではなく、与えられたもの、やらなくてはならないものでしかありません。
何かを学習する時、ロールモデルの設定は非常に効果的な方法ですが、子どもの勉強ではこの道はほぼ閉ざされていると言っても過言ではありません。
ロールモデルという最初のきっかけさえ見つかれば、あとは放っておいても自発的に目標に向かって進んでいく、ということは、勉強ではあり得ないと考えた方が良いでしょう。

イチロー選手の成功は父のコーチングにあった

 目標へ向かう原動力として、感情が利用できないとしたら、残るのは理性に訴える方法です。
それはつまり、なぜやらなくてはならないかを、子どもたち自身に理論的に納得させることです。
この方法が上手くいくであろうことは、私たち自身のことを考えても、わかるのではないでしょうか。
前述したように、他人からいくら言われても、私たちはなかなか動かないし、動けません。
だとしたら、自分が納得して一歩踏み出すしかない。
また他方で、私たちはそれが「やらねばならない」ことだと、十分に理解しています。
私たちは、すでにそれを知っているのです。
回答は私たちの中にあるのですから、それを引き出して納得させることこそが、最良の手段となります。
子どもたちは、なぜしなければならいのか、勉強の意義が何なのかはわからなくても、とりあえず、勉強しなければならないこと、しなければ「やばい」ことを、知っています。
自分たちの中にあるそういう思いを、まず親が引き出してあげる。
「勉強しろ」と押しつけるのではなく、「宿題をしないで放っておくと、気分が悪いんじゃない?それはなぜだと思う?」と、子ども自身に考えさせることが、子どもたちを勉強へと導く良い方法ではないでしょうか。
こうした手法は、実はいま巷でも評判の「コーチング」と呼ばれるメソッドの一種でもあります。
コーチングは当初、スポーツの世界で注目されました。
選手の力を十二分に引き出すには、コーチとして様々なスキルが必要であることから、研究が進みました。
もちろん最大限の効果をあげたいのは、スポーツの分野ばかりではありません。
そのため、ご承知の通り、現在では、ビジネス分野でのコーチングも、非常に注目をあつめています。
日産自動車のカルロス・ゴーン社長が、職場にコーチング術を導入することで、画期的な業績回復を達成した話などがよく知られていますね。
スポーツ界の名コーチの中でも、子育てに関連してよく引き合いに出されるのは、我が子の能力を最大限に引き出した鈴木宜之氏。
イチローこと、かのイチロー選手の父上です。
メジャーリーグの年間最多安打記録を塗り替えるなど、超人的な活躍を続けるイチロー選手の現在は、幼い頃からの宜之氏の指導あってこそ築かれた、と言っても決して言い過ぎではありません。
もちろんイチロー選手に、天性のセンス、運動能力が備わっていたことが大前提ですが、常に息子の将来を考え、野球の理論書をひもとき、毎日欠かさず野球の練習につきあった父の努力こそが、息子の持つ才能を引き出し、開花させたのです。
宜之氏は、子育ては父親最大の仕事である、とおっしゃっています。
親の信念と努力で、子どもは確実に伸びるということの良いお手本、それこそロールモデルとして、見習いたいものです。

しつけは誰でも出来るコーチング

 しかし、ここで疑問が湧いてきます。
スポーツはもとより、ビジネスでも活用されているコーチングが、人間の能力を引き出す良い方法であることは確かだろう。
しかし、良いコーチングを行うには、それなりの知識やスキルが必要なのではないだろうか、と。
心配は無用です。
私たちは、何もバッティングのコーチをするわけではありません。
対象は私たちも通り抜けてきた、学校教育における学習なのです。
かつて「勉強」で失敗したことのある人なら、そして現在、ダイエットができない、続かない、禁煙、節酒できないなど、何らかの問題を抱えている人なら、コーチングは誰にでもできます。
むしろ、誰もがほとんど予備知識なしに行えるのが、我が子の学習に関するコーチングである、とさえ言えるかもしれません。
ものごとの善悪を教える、人間としての礼節を教えるなどと同じように今すべきことをキチンとこなすという生活態度を、「勉強」を通じて教えるという意味では、学習のコーチングは「しつけ」でもあります。
子どもを愛し、持てる能力を最大限に活かせる人間に育って欲しいと、心から望んでいる親ほど、我が子にとっての最適なコーチなのではないでしょうか?Part2からは、コーチングの方法、子どもの勉強をサポートするために、親が押さえておきたいポイントなどを、具体的にご紹介していきますが、「教えることは学ぶことでもある」と心にとめておいてください。
子どものサポートをすることによって、かつての自分の失敗が、癒されるように感じることもあるでしょう。
何かをやろうとして、最初の一歩を踏み出せずにいる、現在の自分自身を鍛えることにつながるかもしれません。
子どもに勉強させる、学校の成績を上げる、と言った、主要な目標とは関係ありませんが、コーチングの副産物として、お父さん・お母さん自身の成長も視野に入れておきたいものです。
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